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ここで言う上衣とは、上半身を被う被服の事を指すものとする。 この頁では上衣の形状による分類を、いくつかの項目ごとに整理し、可能ならば時代の変化などについても言及した。 分類方法としては、『日本の労働着』が大いに参考になった。また形状については大まかな分類しかしていない。微細すぎる分類は余計に分かり難さを招きかねないと判断した。その対象の多くは民具であるから厳密には分類規定が難しいからである。さらに名称についても、一般的だと主観的に思われる名称を使用した。地域や時代によって呼び方は多々あるし、逆に同名異物も多々存在するからである。 なお直垂、小袖といった個別の物については言及しなかった。それらについては別の頁を用意した。 |
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着物には一部式と二部式とに分類出来る。一部式とは上衣と下衣を一着で済ませる物(ワンピース)であり、二部式とは上衣と下衣を分けて使用する物(ツーピース)である。 例えば着流しの小袖は一部式だが、直垂は二部式である。小袖も着流しであれば一部式であるが、袴を着用すれば二部式となる。 フォーマルな物ほど二部式になるが(注)、一方で動き易さや、衣服や身体を汚れと破損から守る為に二部式の作業着も多い。また寒冷地は二部式が多く、温暖な地域では一部式が多い。関東以東は二部式が多く、関西以西は一部式が多い(『日本の労働着p.66〜67)。 注:元々朝廷が唐風に習った服制を導入した為である。中国の服制は大陸の北方系被服に連なる為、フォーマルな物は二部式に成るわけである。 |
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通常とは違う特別の状況で使用する着物:ハレの日に着用する晴れ着。儀礼の際に着用する礼服。葬儀・喪中に着用する喪服など。 同じランクの服であっても、時代や属する共同体によっても種類は違うし、状況によっても変化する。例えば公家や武家の礼服と、百姓(普通の人の意)の礼服とは違う。また野良着であっても、作業の内容によって着物が変わる。 |
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各部位の形状の違いをまとめてみたい。 |
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・盤領と垂領 |
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北方系の盤領と、南方系の垂領である。 唐風俗を指向した上層階級は盤領を取り入れたが、一般的には日本の着物は垂領である。 元々日本の襟は左前(相手から見て左の身頃を前にして重ね合わせる)であったが、これは大陸では未開の蛮人の風俗であるとされていた。そこで朝廷は養老三年(719年)二月に襟の重ねを右前に変更させた。これが現在に至るまで続いており、左前にするのは死者の着物だけとなっている(この場合は生者とは反対の作法をする事で、死のケガレから離れようとする行動である)。 |
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・衽の有る襟 |
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衽(おくみ)は左右の身頃それぞれに付けられた半幅ほどの部品である。これを取り付ける事により、身頃の幅が広がり、前を閉じやすくなる。小袖などには通常付けられている。 右図は襟に共襟/掛襟を付けた物。分かりやすい様に色づけしてあるが、共布(同じ布)を用いる。衿の摩耗や汚染を防ぐ為に付けるが、街着には使わなかった。それが江戸後期の文化・文政(1804〜1830)の頃、黒い掛襟をする事が流行し、町では礼服以外は掛襟をするのが常識と成った(『江戸服飾史』p.384)。現在では共襟/掛襟は着物には一般的な物と成っている様だ。 |
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・衽の無い襟 |
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衽の無い襟を幾つか挙げた。衽が有る物よりも前がはだけやすいので、直垂など胸元に紐をつける物もある。 直垂系の服や、胴服/羽織といった上着は、通常この形式である。また衽の無い分、布を節約できる為、下着や労働着などにも多用される。 |
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・返襟 |
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羽織/胴服に使われる襟の形。襟は通常、別布の身頃よりも良い布を使って造られる。 図では分かりづらいが、襟幅が広く、洋服の様に外側に折り返して着用する。図は衿を立てた状態。 この様に襟を外側に折り返して着用するのは、他には女房装束の唐衣に見られるだけである。日本の着物は襟を内側に折りこむ特色があり、こういった形式は希有な物である。 |
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※赤い線は縫い閉じていない部分。 | ||
・袂の無い袖 |
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平袖は基本的な形状と言える。袖の大きさは様々で、普段着・労働着は勿論、胴服/羽織などの小袖の上着にも使用される。 また装束の袖も平袖だが、大きな平袖(大袖)に一幅或いは半幅の端袖を加え、闕腋(脇明)にした物である。 ゆったりとして開放的な平袖は、温暖な地域に多い。秋田県では平袖を「サツマテッポ」と呼ぶ事例があり、平袖が南方から伝来した事を想像させなくもない(『草木布U』p.167)。 |
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平袖の細く、袖口のすぼまった形状である。腕に良くフィットし活動しやすいので、労働着の多くは筒袖である。 特に寒冷地の服には筒袖が多い。 |
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腕にピッタリとした幅の袖に、「もじり袖」は袖下の布を捻って、「鉄砲袖」は別布を捻って、三角形の襠(まち)を袖下・脇の下に造った袖である。元々袂の有った服を労働着にする中で、動きやすい袖へと改造する際に良く行われる。 ただこの袖は、袖に掛かる負担、部品の数(縫う場所の数)が筒袖よりも増える。当時の道具や糸を初めとする裁縫技術レベル、使用されたであろう草木布の伸縮性では、耐久性の上で問題が生じると予想される。であるから、これらの袖は木綿の普及した近世以降の、比較的新しい袖の形状ではないかいう説もある。(『草木布U』p.167) 「半袖」は丈の短い袖で、袖下の幅は多岐に渡る。他の袖は皆「長袖」である。 |
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・袂の有る袖 |
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袖がゆったりとした形状に変化する中で袂が生じた。いわゆる小袖である。 詳しくは「小袖について」を参照の事。 |
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室町後期から近世初期の小袖の袖。丈が短く、袖下が丸く、身頃に縫い付けられている。袖口も非常に狭い。 |
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江戸時代の中期頃より袖丈が伸び、袖自体も大きく、全体が角張ってくる。それに従い袖口が広がり、袖下と身頃を縫い残し、脇明をする様になる。男物は脇明を縫い閉じるが、女物と未成年物は縫い閉じず身八つ口と降りを生じさせる。留袖は既婚女性の着物袖。 |
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振り袖は、現在では未婚女性の着物袖である。成人前の男女が着用した袖のゆったりとした着物から派生した。江戸時代に入ると袖が長大化してゆき、脇明が生じた。袖の形は丸い薙刀の刃の様な形をしていたので「なぎ袖」と呼ばれたが、これも角袖化して現在の振り袖となる。 |
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・手無(てなし) |
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袖の無い形である。貫頭衣、肩衣がこの形状である。 この形状の服は、夏は風通しの良い防暑服として、冬は手の動きの邪魔をしない防寒用上着として着用される。 |
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・対丈(ついたけ) 長着(ながぎ)とも呼ばれ、現在一般的な和服はこれである。 労働着として使用する際は、からげたり、たくし上げたりする。 |
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・膝丈 丈が膝までの服。 労働着としては、最も多い形状か。 |
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・腰丈/腰切 丈が腰の位置までしか無い。 通常は下衣を着けて二部式で用いる事が多いが、そのまま用いている事もある。 |
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・単衣(ひとえ) 裏を付けない仕立て。布(絹以外の織物)製の物は帷子(かたびら)と称する。 主に夏期服、浴衣、下着の仕立てであるが、通年を通しても使用された。 |
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・袷(あわせ) 裏打ちをした仕立て。 正式には春夏服であるが、冬服として使われる事が多い。 |
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・綿入 間に綿を入れた仕立て。 主に冬服として使われる。 |
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・刺し子 布を重ねて、布一面に刺し縫いを施して固定した物。刺し縫いは装飾も兼ねている。 頑丈で断熱効果が高い為、また古着・古布の再利用が出来る為、多く防寒着や労働着として使われる。現在では武道の稽古着などに利用されている。 |
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・絹 蚕の繭の繊維を取り出して織った布。動物性繊維なので染色に向く。その織り方一つで全く生地の性質を変えてしまう。どれもが高級な生地である事には変わらない。 近世以降、絹の袷・綿入を小袖と呼ぶようになる。 |
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・木綿 綿花の繊維を紡いで織った布。中世後期から日本には流入していたが、近世に至って国内での生産が爆発的に広まる。それ以前は(布自体が貴重な時代の中で)比較的希少な生地であった。生産性が非常に高い事と、江戸幕府の身分統制政策により高位の者以外の絹織物着用を禁じた為、庶民の生地としても普及する。しかしながら綿の生産が出来なかった北日本を始め、木綿の入手が困難な地域もあり、衣服として木綿が広く一般に普及するのは明治以降に成ってからという調査もある(『日本の労働着』p.65)。 肌触りが柔らかく吸水性や防寒製、伸縮性に優れているが、草木布に比べると遥かに弱く、綿埃も生じさせる。植物性繊維なので下地処理を施さないと染色出来ないが、染料の発色や定着は良く、染色に向く。 |
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・草木布 麻を代表とした身近な草木の繊維を取り出して織った布。中世までの最も一般的な繊維で、近世に至っても地域によっては木綿よりも一般的であったし、広く夏用生地としても使われる。布と呼ぶ場合は、これらを指す。 植物性繊維であるから染色には向かないが、麻は含まれる不純物のせいで下地処理をしなくとも染色が可能である。もっとも発色は良くなく、色の定着も悪い。晒すのも難しく、白い布は貴重である。堅く吸水性や防寒製、伸縮性には劣るが、使い込むと柔らかくなり頑丈である。 古義の布子は、これら布を使用した布小袖の事をいう(後に木綿の綿入れを布子と呼び、意味が転化する)。 |
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・混合 縦糸と横糸の繊維を変えた物。 |
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・裂き折り 古布などを細く裂いた紐を横糸にして織った布。布の再利用として使われる。 特に木綿の普及が送れた東北・北陸以北では、木綿の古着・古布を購入し、それを裂き折りや刺し子にして利用していた。 |
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・紙子 紙に柿渋やコンニャクの溶液を塗り、もみほぐして柔らかくした生地。 主に防寒・耐火用の生地。 |
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・藁 稲作をする地域では藁を生じる為、ゴザや蒲団と言った生活用品として活用した。履物や被り物の他にも、キゴザや蓑、腰蓑といった着物にも利用された。雨具や防寒防暑、荷物を背負う際のクッションとして。 |
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・革・毛皮 鹿革を初めとして皮革製品も、着物の一部あるいは全体に使用されている。加工の仕方も、なめした物、ふすべた物、毛皮のままの物などがある。防寒、耐火用として使用される事が多い。 |