金創治療



 ここでは金創を中心とした戦傷に対する具体的な治療方法を列記してみたい。
 方法としては時代順に、医書・流派ごとに列記する事とする。直接内容を参照できた医書に関しては、必要な部分を抜き出してまとめた。直接内容を参照できなかった医書・流派に関しては、その内容に触れた研究所から孫引きした。


奈良時代以前

平安時代

鎌倉時代

南北朝・室町時代

織豊時代/江戸時代初期




奈良時代以前

 大陸や半島から医書や技法が輸入されていたと思われるが、まだ本邦において医書は編纂されていない。ただ『古事記』の中に外科治療に関する記述を散見する。(『明治前日本医学史』三巻p.231)


・火傷の治療方法(大穴牟遅神が八十神の謀略で火傷を負った話に於いて)
 赤貝の焦粉を蛤の生汁で溶き、人の乳と混ぜて混ぜて塗る。

・皮膚の傷の治療方法(稲羽の素兎の話において)
 蒲黄(蒲の穂。花粉)をすりつける。




平安時代

 平安時代に金創治療法を記した医書は幾つか存在した様であるが、現存する物としては、丹波康頼が984年に円融院に献上した『医心方』だけである。この『医心方』は日本で編纂された初めての医書であり、その内容は中国の医書から項目ごとに治療方法を抽出した物である。この中の十八巻「外傷編」の中に金創治療方法を観る事が出来る。基本的には大陸で編み出された技術の輸入であり、内容としては後の西洋外科技術が伝来するまでの長期に渡り、さして変化することなく利用され続けている。



『医心方』第十八

 『医心方』では各病状に項目を分け、先ず『病原論』から診断の方法を引用し、続いて様々な医書から治療方法を引用し列記している。
 「外傷編」に当たる第十八巻から、金創治療を中心に、戦陣医療に関わる部分を抜き出した。今回は略したが、毒矢に対する治療方法や、各種動物に噛まれた際の治療方法、落馬や落下事故の治療方法なども記載されており、現代文で読める刊行本が出ているので、興味のある方は直接目を通して欲しい。

・金属による傷(金創)の治療方法
・金創によって腸が出た時の治療方法
・金創により腸が切断された上で出た時の治療方法
・金創によって骨や筋を断たれた時の治療方法
・金創で出血が止まらない時の治療方法
・金創で内出血した時の治療方法

・創が風邪にあたってすくむ時(破傷風)の治療方法
・金創を負った際の注意
・矢傷で内出血した時の治療方法
・矢尻や刀が出ない時の治療方法
・打撲傷の治療方法
・捻挫・脱臼・骨折の治療方法
・火傷の治療方法


 注1・現存する『医心方』は異本が数種在るが、現在刊行されている安政本を参考にした。これは安政期に江戸幕府により編纂された物である。
 注2・『』内は引用元の大陸の医書名。




金属による傷(金創)の治療方法
診断:傷口周辺を押さえた時、急に乾く場合は皮膚や肉が生じない。青黄色の汁が出て、冷え澄み、肉が消えて悪臭を発する時は腐敗する。初めに赤い血が出て、後から黒い血が出てただれた者や、出血が止まらずに白き汗(冷汗)が合わせて出る者は助からない場合が多い。もし股の内、陰部、股、天窓(てんそう。或いは窓籠。首の側面中央のツボ)、眉角(びかく。眉銜の事だとすると、額中央の前髪の生え際のツボ)などの絡脈(径脈から枝分かれした脈)に当たり、ふくらはぎや腸、乳上、乳下、鳩尾(きゅうび。みぞおちのツボ)、攅毛(さんもう。この名のツボは現在無く、攅竹の事だとすると、眉の内端のツボ)、下腹などを横断し、尿が傷から漏れだし、気が下腹部から胸元に突き上げて腹部が絞られる様に痛み、呼吸が絶えそうになる者、脳が出たりする。こういった場合は助から無い事が多く、治る事は少ない。『病原論』

治療方法:
(応急手当)
 ・直ぐに尿をかけると良い。『葛氏方』
 ・緊急の場合は、桑を切って白い汁を採取し、これを厚く塗る。『葛氏方』
 ・薬の持ち合わせが無い時は、葛の根と葉をもんで傷につける。『葛氏方』

(治療)

 金創の場合、まずは血を止めて、傷をふさがねばならない。基本的な治療方法としては、石灰や薬草をつけてから、包帯をする。細菌の観念が無いので消毒はしないが、他の治療方法を考慮に入れると、傷口の洗浄や縫合といった治療が行われた様に思う。

 ・石灰(無ければ篩いにかけた灰を何でも)を用いて、傷を厚くふさぎ布で包む。血が止まり早く直る。『葛氏方』
 ・止血には白灰(恐らく石灰)、無けれ何でも良いが灰を用い、痛み止めにはカキの殻を混ぜる。これを厚くつけて布で包む。傷が深い時は行ってはならない。傷口が合っている場合は、灰の中に少し滑石を入れるが、時に傷口が合わなくなる。『小品方』
 ・ヨモギの葉を揉み熟し、傷の上に置いて布で包む。『蘇敬本草注』
 ・石灰と猪脂(豚か猪の脂。ラード。)を練り合わせ、焼いて赤くした物を塗る。『救急単験方』

 その他に止血、痛み止め、治癒を助ける薬効の在る物として、下記の様な物が挙げられている。

 青い布(おそらく藍染)を焼いた灰/『龍門方』。桑の柴(薪用の枝葉)の灰
/『蘇敬本草注』。紫檀の粉末/『葛氏方』。地菘草(ヤブタバコ。漢方名天名精)を噛んだ物/『龍門方』。生の青蒿(カワラニンジン。一説にはヨモギ)を揉んだ物/『極要方』『蘇敬本草注』。葛根の粉末/『極要方』。忍冬(スイカズラ)を搗いた物/『極要方』。景天(ベンケイソウ)の葉を搗いた物/『陶景本草注』。ラッキョウを搗た物/『陶景本草注』。落石(ツタの事)を搗いた物/『蘇敬本草注』。生栗の実を噛んだ物/『救急単験方』。焼いた馬糞/『葛氏方』。カキの殻二分・石膏一分を粉末にした物/『極要方』。

(傷の中に虫が湧いた時)
 ・傷の中に虫がいて刺す時は、杏仁を搗いて塗る。『極要方』
 ・化膿して虫が湧いている時には、一日三回白灰を傷につけると虫が出る。『小品方』

(痛み止め)
 ・葱白(ネギの鱗茎部)一把を水三升で煮て、数回沸騰させてから傷を浸す。『千金方』
 ・小豆一升を苦酢(古くなって酢になった酒)に漬け、炒って乾かす。これをもう一度、三日間苦酢に漬けて色を黒くして、磨り潰す。これを一日三回、方寸匕一杯づつ服用する。『千金方』
 ・当帰(トウキの根)・甘草(ウラルカンゾウの根)・蒿本(こうほん。セリ科多年草ソラシ。日本ではカサモチやヤブニンジンで代用)・桂心(熱帯アジア産の桂)・木占期(樟の樹の寄生樹)、各一両を混ぜて搗き、ふるいにかけた物を方寸匕半杯ずつ、一日三回、夜は一回服用する。『劉涓子方』

(包帯について)
 ・金創をゆわう時は古い布を用い、ゆるくも、かたくもせず、衣帯をつける様にする。『范汪方』
 ・金創を負った時、冬は厚い綿入れを来て暖かくし、包む布は薄くする。夏は単衣を着て涼しくして、包む布は厚くする。『病原論』




金創によって腸が出た時の治療方法

治療方法:
(内臓が出かかっている時)
 ・乾いた人糞を腸の上に振りかけて、直ぐに腹の中に入れる。『小品方』

(内臓が出てしまった時)
 ・大麦で粥を作り、その汁で腸を洗う。それから水に浸して腸を腹に戻す。食事は米を研いで粥を作り(筆者注:研ぎ汁か?)食べさせる。二十日ほど経ったら硬めの粥を、百日経ったら飯を食べさせる。『病原論』
 ・桑の皮の繊維を取って腹の皮を縫い、蒲黄をつける。『刪繁方』

(はみ出た内臓が押し戻せない時)
 ・小麦五升を水九升で煮て汁を四升取り出し、かすを取り除き、綿でこす。この汁を良く冷やしてから、傍らの人が口に含んで腸に吹き付けると、自ずから入っていく。『劉涓子方』
 ・慈(磁)石散で腸を元に戻す方法。慈石・滑石各々三両を篩いにかけ、白湯で方寸匕一杯ずつ、日に五回・夜に二回服用すると、二日で入る様になる。『劉涓子方』

(はみ出た内臓が汚れている時)
 ・腸がはみ出て乾きそうになり、しかも草や土が付着している場合。薄い大麦の粥を作り、僅かに暖めて腸にそそぎ、新しく汲んだ冷水を口に含んで吹き付けると戻る。草や土などが入らない様に厳重に注意しなければならない。『葛氏方』




金創により腸が切断された上で出た時の治療方法

診断:切れた腸の片方しか見えない時はつなぐ事が出来ない。腹痛がして呼吸が激しく、飲食が出来ない者は、傷が大腸ならば一日半、小腸ならば3日で死ぬ。『病原論』

治療方法:
 ・切れた腸の両端が見える時は直ぐにこれをつなぐ。針と糸を使って決められた方法で縫合し、その後に鶏の血を繋ぎ目に塗り、はみ出さない様に腹の中に押し戻す。『病原論』
 ・桑の皮の細い繊維で縫合し、まだ温かい鶏の血を塗り、腹の中に入れる。『葛氏方』




金創によって骨や筋を断たれた時の治療方法

 ・切断されなくとも筋を傷つけられると、傷が癒えても麻痺が残る。もし骨や関節が切断されれば、これを接がなければならない。とにかく急いで、血の気が在るうちに縫い接ぎする。傷が癒えても直ぐには屈伸させてはいけない。もし砕けた骨を取り除かないと、痛みが引かず、血や膿が絶えず、精神を冒されて十分の一しか助からない。『病原論』
 ・筋が切れた時は、カニの味噌と足の肉と髄を傷の中に入れる。『小品方』




金創で出血が止まらない時の治療方法

診断:
出血が止まらず脈が大きく打っては止まる者は三週間で死ぬ。また出血が止まらず、初め赤い血が、続いて黒い血が出たり、或いは黄色い血が出たり、肌や肉が白くなり腐臭がし、急に冷たくひえて硬くなる者は傷が癒えにくく助からない。『病原論』

治療方法:
(薬を服用する方法)
 ・筋や脈に金創が当たると出血が止まらず死に至る。急いで塩を炒り、三指撮(三本の指でつまんだ分量)を酒で服用する。『葛氏方』
 ・蒲黄二斤・当帰二両を篩いにかけ、方寸匕一杯ずつ一日三回、酒で服用する。『千金方』

(薬を付ける方法)
 ・傷にツバを付けて呪文を唱える。「厶甲今日不良為其所傷上告天皇下告地王清血莫流濁血莫揚(私は今日は具合が良くない。それは傷を負った為である。天皇に告げ、地王に告げる。清い血を流してはならない。濁った血を揚げてはならない)」。よく眠り、日に十四回ツバを付ける事。『千金方』
 ・車前草(オオバコ)を搗いて汁を取り、傷につける。『千金方』
 ・蜘蛛の巣をつける。『千金方』
 ・アザミを揉んで傷につける。『孟セン(言偏に先)食経』
 ・白灰を傷口で包む。『范汪方』
 ・山芋を噛み、これを傷口につける。風にあたらない様にすれば早く癒える。『耆婆方』
 ・ヨモギを熟してつける。『極要方』
 ・麝香(ジャコウ鹿の陰嚢)の粉末をつける。『極要方』
 ・乾燥させた馬糞で傷を覆う。『極要方』
 ・麒麟竭(スマトラ産カラムスドラゴンの樹脂及び果実の脂)の粉末を傷口につける。『広利方』
 ・桑の木を潰して白い汁を採り、傷口に塗る。『広利方』




金創で内出血した時の治療方法

診断:
金創は内部に達し、内出血が多い。もし腹がふくれたり、両脇が腫れたり、食事が出来ない者は死ぬ。内出血があり腹が脹れた時、脈が強い者は助かり、弱い者は助からない。『病原論』

治療方法:
(薬を服用する方法)
 ・蒲黄を方寸匕二杯服用すれば、血は直ちに下る。『葛氏方』
 ・小豆の煮汁を五升服用する。『葛氏方』
 ・地面に掘った穴に水を濯ぎ、かき混ぜて濁った水を汲んで二升ほど飲む。『葛氏方』
 ・牡丹を粉末にし、三指撮分を水で服用する。『千金方』
 ・白シ(草冠に止。エゾノヨロイグサの根。日本ではシシウドの根で代用)・黄耆(カラオウギの根)・当帰・続断(ナベナ、トウナベナの根)・キュウ(草冠に弓)窮(オンナカズラ)各々八分、甘草(あぶった物)六分、蒲黄・乾地黄(ジオウの根を乾かした物)各々十二分を粉末にし、空腹時に方寸匕一杯を酒で日に三回服用する。食いしばって口を開けられない症状が出ている時は、大黄を十二分加える。『医門方』

(その他の方法)
 ・器に湯を入れて、腹を熨して暖める。熱が内部に達すると血が消える。『葛氏方』




金創が風邪にあたってすくむ時(破傷風)の治療方法

 現代で言う所の破傷風と思われる症状の治療方法。破傷風は破傷風菌による感染症であるが、当時は当然その様な概念は存在しない。傷を生じた際には風に当たる事を良くない事としていた様である。

治療方法:
 ・生の葛根一斤を刻んで、九升の水で煮て、三升に煎じる。カスを除いて、三回に分けて服用する。生の葛根が無い時は、乾燥した葛粉三指撮分を温かい酒で服用する。もし食いしばって口を開けられない症状が出ている時は、呉竹を火で炙り、両端から出てくる汁を飲ませても良い。『医門方』



金創を負った際の注意

 ・以下の様な事は痛みの原因となるので慎む。激怒、会話しすぎる事、大笑する事、思想、性行為、動く事、力仕事、塩辛い物や酸っぱい物を沢山食べる事、飲酒、熱い肉野菜を沢山食べる事。傷が全治してから百日か、半年後に少しずつ普段の生活に戻してゆく。『葛氏方』
 ・汁粥の類を沢山飲むと、直ぐに地があふれ出て死に至る。『葛氏方』
 ・猪肉(猪や豚の肉)と梨は食べてはいけない。『陶景本草』



矢傷で内出血した時の治療方法

 ・矢傷が腸を破り多量に内出血をした時は、葵子湯(きしとう)を処方する。葵子(冬葵の果実)一升を、小便四升で一升になるまで煮詰めて作る。これを一度に飲むと、血が排出されて治る。『録験方』
 ・矢傷で腹中に血が溜まった時は、瓜子散(かしさん)を処方する。乾薑(乾かしたショウガの根)・瓜子(冬瓜の種の仁)各々二両を磨り潰して篩いにかけて作る。これを食前に酒で方寸匕一杯服用する。『録験方』
 ・廬茹散(ろじょさん)を処方する。廬茹(アシの花穂)三両・杏仁二両を磨り潰して篩いにかけて作る。食前に酒で方寸匕一杯を服用する。『録験方』



矢尻や刀が出ない時の治療方法

診断:
矢尻が当たって骨が割れ砕けた時は、矢尻を取り出さなければならない。そして砕けた骨を取り除いてから薬を付けなければ、傷がなかなか治らず、傷がふさがっても常にうずき、そこに何らかの力が加わった時に出血して死ぬ者もいる。『病原論』

治療方法:
(喉や胸、腹の中などに入って分からなくなった場合)

 ・杏仁を搗いた物を傷口に塗る。『葛氏方』
 ・ケラの脳を傷口に塗る。『葛氏方』
 ・白レン(ヤマカガミの根)と半夏(カラスビシャクの球根)を同量ずつ粉末にし篩いにかけ、寸匕一杯を日に三回、酒で服用する。『千金方』
 ・牡丹・白レン各々一分を粉末にして、方寸匕一杯を日に三度、酒で服用する。『小品方』
 ・婦人の月経衣の汚れた部分を焼いて粉にし、方寸匕一杯を日に三度、酒で服用する。『小品方』『集験方』
 ・瞿麦(くばく。カワラナデシコの種)を粉末にした物を、方寸匕一杯を日に三度、夜に二度、酒で服用する。あらゆる刺し傷にも効く。また酒と混ぜて塗る事。『録験方』
 ・梨の花の煮汁を服用する。『録験方』
 ・矢尻が体内に入ったまま三年から五年経っても出ない場合は、胡麻の実三升を粉末にして水にとかして三升の汁を作り、暖めて服用する。『録験方』
 ・矢尻が腹に入ったまま出ない場合は、カ(木偏に舌)楼(キカラスウリの果実)を搗いて、日に三度傷の上に塗る。『龍門方』

(肉や骨に刺さって抜けない場合)
 ・鉄が骨に刺さって出てこない時は、鹿角の灰を猪膏(猪や豚の脂)と練り合わせて塗る。『葛氏方』
 ・鉄の矢尻や兵器が刺さって折れて体内に残って出ない時は、白シ・白レン各々三分を砕いて篩いにかけ、刀圭(薬を盛るさじ)一杯を日に三度、酒で服用する。『録験方』
 ・金属の矢尻や折れた針が出ない時は、鼠の脳、或いはワラジやトビムシ、或いはケラの脳をそこに塗る。『小品方』
 ・矢や針が肉の中にある時は、象牙を粉末にして水で溶き、杏くらいを折れた針の上につける。竹や木の針にも効く。『小品方』『医門方』




打撲傷の治療方法

診断:
打たれて骨が窪み、脳に損傷を負い、目眩がして頭を挙げて居られず、眼は直視し、言葉が話せず、喉から声がこみ上げ、口をせわしく喘がせ、手で物を持てなくなれば、その日の内に死ななければ、3日には少々癒える。『病原論』

治療方法:
 ・挫いたり転倒したりして怪我をし、呼吸が荒く、顔面蒼白になった者には、乾地黄半斤を酒一斗に漬け、火で温めて、この汁を少しずつ一日かけて飲み干させる。『葛氏方』
 ・或いは生地黄を搗いて汁二升を採り、これを酒二升と合わせて煮る。三回沸騰させ、四回から五回に分けて服用する。『葛氏方』
 ・或いは乾地黄六両・当帰五両を水七升で煮て、三升に煎じ、三回に分けて服用する。もし痛みが酷い時は乾地黄の代わりに生の物を用いる。『葛氏方』

(内出血を生じた場合)

 ・蒲黄一升・当帰と桂心各二両を、方寸匕一杯ずつ日に三度、酒で服用する。『千金方』
 ・黒大豆を蒸して発酵させた物一升を水三升で煮て、三回沸騰させて、二回に分けて服用する。『千金方』
 ・生地黄の汁三升を酒一升半で煮て、二升七合の汁を作り、三回に分けて服用する・『千金方』
 ・人に打たれて全身に内出血のある時。青竹の皮を二升と、人の抜け毛を鶏卵大に丸めた物四個を火に炙って焦がした物とを、一緒に搗いて粉にする。この粉一合を酒一升で煮る。三回沸騰させ、これを一日に四、五回以上飲み干す。またこれに蒲黄三両を入れる。『葛氏方』

(皮膚の間に血が溜まっている場合)
 ・猪の肉を切り取って火に炙り、熱した物でその上を覆う。『葛氏方』
 ・馬糞を水で煮て、その上につける。『葛氏方』

(腹の中に血が溜まっている場合)
 ・アザミの汁を5〜6合服用する。『千金方』
 ・白馬の蹄を焼いて粉にし、方寸匕一杯を温めた酒で、日に二回・夜に二回服用する。『劉涓子』
 ・腸の中に血が溜まっている時は「去血湯(きょけつとう)」を処方する。これは赤小豆二升を一緒に煮て(何と煮るかは不明)、二升の汁を採り、良い苦酒七升を混ぜた物。これを一日かけて飲み干す。『范汪方』
 ・血が久しく溜まっていて、時折発動する時は、大黄(レウムの球根)と乾地黄の粉を酒で服用するか、蒲黄一升・当帰二両を粉にして方寸匕一杯ずつ日に三回、酒で服用する。『葛氏方』
 ・久しく血を除かないと化膿する時がある。その時は大黄三両・桃仁と杏仁三十個ずつを、酒と水五升ずつで煮て三升に煎じ、これを三回に分けて服用する。『葛氏方』

(頭が割れた場合)
 ・頭が割れた時は、猪脂を石灰と塩と混ぜて焼き、灰を傷の上につける。『新録方』
 ・頭が割れた時は、生地黄を細かく搗いて傷につける。『新録方』
 ・頭が割られて脳が出て、既に死んでいるが心臓が動いている(仮死状態)時は、猪の子の血を熱い内に脳の中に濯ぎ、傷の中を満たす。もし猪の子が無ければ、熱い血で在れば良い。『小品方』
 ・或いは水銀を大豆ぐらいの量を服用すれば、直ぐに生き返る。『小品方』
 ・頭が割れて脳が出た所に風があたり、口を食いしばっている時。まず大豆を一升炒って生臭さを飛ばす。火にかけすぎてはいけない。搗いて粉にし、これを蒸す。充分に蒸して湯気を行き渡らせたら甑(こしき)から盆に移し、酒一升をそそぐ。温かい内に一升を服用し、体を覆って汗をかかせた後、杏仁膏(杏仁五合を黒焼きにして磨り潰し軟膏にした物)を塗る。『千金方』




捻挫・脱臼・骨折の治療方法

診断
:凡そ骨折などをした時は、夜、寝汗をかく者は髄が切れており、一週間で死ぬ。汗が出ない者は死なない。『病原論』

治療方法:
 ・四肢の捻挫、骨折、及び筋を傷つけた時は、添え木(竹簡や細く割って編んだ竹や木)をする。生地黄を細かく搗き、患部につけて一昼夜に十回取り替える。こうすると3日後には治る。『葛氏方』『極要方』

 ・凡そ捻挫や骨折、傷が腫れる場合は風に当たってはいけない。湿った所で寝たり、自分で扇いで風に当たると、すくんで歯を食いしばり死んでしまう。既に頸やうなじ、体がすくんでしまった者は、急いで呉竹を火で炙って両端から出る汁を二升から三升飲ませる。もし既に口をつぐんでしまった者は、何かを使って開いて入れる。冷たい物を飲み食いしたり、飲酒はいけない。『葛氏方』

(薬を付ける方法)
 ・骨が割れた直後に温かい馬糞を患部につけると跡が残らない。『千金方』
 ・生地黄を多少を問わず細かく搗いて、患部へつける。『千金方』
 ・生きた鼠の背中を切って、血が温かい内に患部につけると直ちに治る。『葛氏方』

(薬を服用する方法)
 ・四肢を骨折したり筋を傷つけた時は、黒大豆を蒸して発酵させた物三升を水二升に漬け、汁を採って服用する。『千金方』
 ・大豆二升を水五升で二升に煮詰め、この汁に澄んだ酒六升から七升を混ぜて、一日で飲み干す。『千金方』
 ・蘇方木或いは接骨木(ニワトコ)二升を砕き、水と酒各々二升ずつを入れて、一升六合に煮詰める。これを二回に分けて服用する。『新録方』
 ・痛めた骨や筋が疼く時は、折傷木(イタビカズラ)を酒で煮て、濃い汁を作って服用する。『極要方』

(内出血をしている場合)
 ・もし骨折した周りに内出血している時は、刀で切開して血を抜く。冷たい物を食べてはいけない。大豆を搗いて粉にし、猪膏と練り合わせて内出血している患部の上に塗る。乾いたら取り替える。『小品方』
 ・あるいは鼠の糞を焼き、猪膏と練り合わせて、血の上につける。『小品方』




火傷の治療方法

診断:
凡そ火傷をした者は初め、冷たい物、井戸の下の泥、蜂蜜を患部に浸してはいけない。熱気は冷やすと骨や筋まで至る。後で患部が引きつるのは、この為である。『病原論』

(まだ水ぶくれが出来てない火傷)
 ・冷えた灰を水に溶いて、これに浸す。或いは鶏卵の白身か、大豆の醤、粉末にした石膏を患部に塗る。『葛氏方』

(既に水ぶくれ、ただれが出来た火傷)
 ・火傷の水ぶくれを治療する際には、薬を塗る前に、冷やした大豆の濃い煮汁で患部を洗う。『医門方』
 ・上等な蜂蜜を患部に塗り、竹の筒の中にある膜を日に三度貼る。『葛氏方』
 ・大豆を煎じて、その汁をつける。『葛氏方』
 ・猪膏と米粉を練り合わせて日に五、六回塗る。『葛氏方』
 ・上等の酒で洗い、これに漬ける。『葛氏方』
 ・火傷が水ぶくれになった場合は、柳皮を焼いて粉にしてつける。『極要方』
 ・火傷がタダレた場合は、梨を削いで患部に張る。『極要方』
 ・猪脂で柳白皮(枝垂れ柳の枝や根の表皮とコルク質を除いた部分)を煎じて患部に塗る。『極要方』

(その他)
 ・火傷が耐え難い時は、犬の毛を細かく切り、溶かした膠と混ぜ、患部塗る。『医門方』

(火による火傷で意識不明に成った場合)
 ・火に焼かれて激しく苦しみ、悶絶して意識不明に成った者には、蜂蜜を冷水で溶かして飲ませる。歯を食いしばっている時は、口に枷をして飲ませる。『小品方』
 ・或いは支子膏を処方する。これは支子(クチナシの果実の仁)三十個・白レン(カガミグサ)と黄ゴン(草冠に今。コガネヤナギ)各五両を荒く搗き、水五升・ゴマ油一升と一緒に煎じる。カスを採り、冷やして患部に垂らす。『小品方』

(火による火傷)
 ・醤の上澄み一分と蜂蜜二分とを混ぜて、患部にぬる。『僧深方』
 ・猪膏で柏樹皮(コノテガシワの樹皮)を煮て、患部につける。『僧深方』
 ・丹参(タンジンの根)を羊脂で煮て、患部につける。『千金方』
 ・死んだ鼠一匹を、猪膏ですっかり溶けるまで煎じて患部につける。『千金方』
 ・楡白皮(ニレの表皮とコルク質を除いた樹皮)をかみ砕いて患部に塗る。『千金方』

(火による火傷で水ぶくれ、ただれが出来た場合)
 ・排泄したばかりの牛糞を塗る。『龍門方』
 ・桑の柴を灰にして水に溶き塗る。『龍門方』
 ・支子27個を蜂蜜三合に漬け、これを日に三回塗る。『龍門方』
 ・慎火草(ベンケイソウ)を搗いて患部に塗る。『新録方』
 ・石灰を篩いにかけ、水に溶かして患部に塗る。『録験方』
 ・烏賊魚骨(モンゴウイカの甲)を二銖を砕いて篩いにかけ、蜂蜜二両の中に入れて溶かした物を、日に二回、患部に塗る。『范汪方』
 ・柏樹白皮を粉にし、猪脂と混ぜて塗る。この煎汁で患部を洗う事。『耆婆方』
 ・柏樹白皮五両・甘草一両・竹葉三両・生地黄五両を全て刻んで綿に包み、苦酒五合に一晩漬ける。これを猪膏一升で煎じて竹葉が黄色くなったら取り出し、カスを採って患部につける。『刪繁方』



戻る