草鞋について



・草鞋の歴史

・草鞋の構造台/緒/返し輪/乳

・草鞋の素材




草鞋の歴史


 草を編んで作る(短沓を意味する漢字)が大陸より奈良時代に伝来したのは、前項で述べた通りである。
 その頃、稲作で生じた藁(わら)を生活用具の材料として使用する事が一般的になった事から、草として藁が沓にも使われ、「草鞋」と書き「ワラグツ」と呼ばれる様になった。
 この「草鞋」が徐々に日本の風土と生活に合った鼻緒式履物として、現在の「草鞋」の形に、平安時代中期から鎌倉初期に完成された、と言う事も既に述べた。

 「草鞋」の呼び名も時代と共に、
「ワラグツ」「ワラウヅ」「ワランヅ」
と変化してゆき、室町時代には現在の様に「ワランヂ」「ワラジ」と呼ばれるようになった。
(潮田鉄雄『はきもの』p.149〜150)

 鎌倉時代を通じて労働時、旅行時の履物として普及していった草鞋が、戦場でも使われ、騎乗時の履物としても一般的に成って行く事も、既に述べた通りである。





草鞋の構造


 構造は本体である「台」、それに「緒(お)」、緒を通す「乳(ち)」、踵の「返し輪」から成る。(図A参照
(草履との混合型も存在するが、ここでは触れない)

 先端の緒を足の親指と人差し指とではさみ、緒を乳に通しながら踵に回し、返し輪をくぐらせてから、足首に結び付けて固定し装着する。
(履き方に付いては様々あるが、ここでは一般的なやり方のみ記しておく)

 草鞋の構造と、それに伴う装着の方法にも地域によって色々あり、各部位ごとにバリエーションを見てゆきたい。


・台

 B図を見てもらえれば分かる様に、基本的にはフリーサイズである草鞋の台にも大小がある。使用される地理的条件によって違いが出るようであるが、定かではない。
 上の方の草鞋は比較的小さなサイズの台であるが、分かるであろうか?この草鞋は私の郷里である東京都府中市の物であるが、この地域では足よりも小さな台が一般的である。多摩川沿いという地理的条件が影響しているのかもしれない。


・緒

 よった藁紐の太さには様々あれど、特に差異は無い。
 構造としては、大陸の「草鞋」の多くに、つま先から出る緒が一本の物がある。この緒を乳や返し輪に通してからグルリと足首を巻、固定して装着する。
 これらはサンダル式で鼻緒式では無いのだが、この形状に近い緒が一本の草鞋が、山口県に残っているが(『はきもの』p.136)、一般的ではない。草鞋の古い形の一つなのかもしれない。


・返し輪

 返し輪は、その装着の方法から大きく2つに分ける事が出来る。

 一つは挿入式の返し輪である。(図D
 比較的長めの返し輪を後乳に挿入して着用する。
 この方法は大陸や台湾の形と同じである。

 もう一つは不挿入式である。(図C
 これは短めの返し輪で、後乳に挿入しないで着用する。
(後で述べる無乳・二乳草鞋は不挿入式だが、ここでは四乳草鞋についてのみとする)

 潮田氏の調査によると(『はきもの』p.141〜143)挿入式は北九州をはじめ瀬戸内海を囲む山陽地方、四国の西部、近畿地方西部、さらには太平洋側の東海・東山(南部)・関東地方に分布する。
 一方、不挿入式は、その帯から外れた西日本の周辺部や、北日本の雪国に見られる。
 潮田氏は日本の地理と流通路をふまえ、大陸や台湾からの伝来のルートに関連しているのではないかと分析されている。

(返し輪を後乳に引っかける引掛式も存在するが、これは挿入式の亜種ではないか。)


・乳

 緒を通す乳の数から、無乳草鞋二乳草鞋四乳草鞋六乳草鞋八乳草鞋の種類があげられる。

 最も一般的なのは四乳草鞋だが、山伏や百姓が山歩きに使った八乳草鞋や、江戸時代の軍学者が履いたという六乳の武者草鞋など、強靱さを求められる条件の中で、乳や緒を切れにくくする為の工夫として、乳の多い特殊な草鞋もある。

 また山間部の山仕事では無乳草鞋、二乳草鞋等、ゴンゾ草鞋と呼ばれる物が使用された。
 無乳草鞋は、乳を作らずに緒を台に直接縫い通し、返し輪をくぐらせる形であり、乳の有る草鞋よりも古く、草鞋の原型をしのばせる物である(『はきもの』p.144)。





草鞋の素材


 草鞋の素材は主に藁であるが、使用された素材はそれだけではない。

 その他には茗荷(みょうが)の茎棕櫚(しゅろ)竹の皮道草山葡萄の皮桑皮等が使われた。
 これらは藁がとれないと言った事情によって使用されたりもしたが、それぞれの素材の特徴を生かして使い分けられた場合もあった。

 例えば藤は水に浸かると柔らかくなるので川での普請に使われたという。
 麻も水に強い事から火消草鞋として使われた。
 その強靱な事から、麻、棕櫚、山葡萄の皮を使った草鞋が、戦場において軍用の草鞋として武士に使用されたという。特に麻で編んだ草鞋を藍染めした物が有名である。
(なお、藍染めは虫除けの他、繊維の耐久性を向上させる働きがある。)
 木綿の布で編んだ草鞋もあり、鷹野草鞋・切れ草鞋・火事場草鞋と呼ばれる。水に濡らすと強靱で釘を踏んでも抜く事も無いと言うが、水を吸うと重くなり使いにくいとも聞く。

 異種類の繊維材を混合した物も見受けられ、藁や竹の皮と木綿を併せ編みした物布草鞋という。
 裂いた木綿を混ぜる事により温もりと耐久性を向上させ、さらに強靱度も増す為に茨が立たず、山仕事に用いられたという。


 草鞋は繊維質の素材を編んだ物なので、柔らかくて履きやすく、コストも安い。それは同時に痛みやすいという事でもある。
 民需品として利用するにしろ、軍用として使用するにしろ、常に予備を持っていなければならないし、消耗品として備えを蓄えて於かねばならない。
 農耕にたずさわる家では、暇さえ在れば藁をほぐし、藁衣を作っていたというが、もったいないので普段は裸足で過ごしたという証言もある。

 その編み方だが、柔らかく編む事も、堅くきつく編む事も当然出来る。
 柔らかく編めば履きやすいが消耗しやすく、きつく編めば堅くて履きにくいが耐久性も強靱度もあがる。
 旅路に使うので在れば堅く編まねばならないというし、始め堅くても足になじむので堅く編んだ方が良いのであろう。
 以前、イベントに参加したおりに支給された草鞋は、柔らかくて大変履きやすい物で在ったが、街の古老達は「柔らかすぎて直ぐに痛むな」と話していたのが記憶に残っている。
 さらには履く前夜に水に濡らしておくと、これまた耐久性や強靱度が上がるという。



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