鞘の改造



@鞘の下地造り

A革包み

B金具付け

C塗り


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@鞘の下地造り


 先ほどの分解の時点で既に剥離剤で表面の塗料を剥がしておいたが、後から革を貼り付ける際に支障をきたさない様に、カンナを掛けて完全に塗装を除去する事にした。
 また前述した様に、なるべく鞘を薄くしたかったのと、革で包むと必然として太くなってしまうのからという理由もあり、カンナがけを施した。他にも鍔を取ってしまうと、柄と鞘が直接接する事になり、接点に段差が生じる。これは鞘の鯉口が裾広がりに造られていて、鞘の方が幅広に成っている事から生じる。これを柄の幅に合わせて削りこんだ。



 付属していたプラスティックの栗型は使わない。付属の栗型は鞘との接地面がフラットであったが、新しい栗型は接地面が曲面なので(普通は曲面)、朴(ほお)の木を貼り付けて栗型に合わせて削った(水色の矢印)。
 また新たに返角を付けるので、それに合わせて差し込み穴を施した(赤い矢印)。なお緑色の矢印は失敗した所を、朴の木で埋めて修正した部分。
 栗型と返角の距離は、近世の物と比べると近い。これは刀を差す帯の種類に由来する様だ。後世になって返角の位置を遠目に離して付け直している物もある。峯の薬師奉納武器の資料に掲示されている数字をみると、10〜13cm(大体四寸前後)の物が多かったので(中には7cm弱というのもある)、それに合わせてみた。



A革包み



 革を膠で貼る。
 革は本来はシボ革や馬革を使用する様だが、なかなか手に入らないし高価なので、薄目で柔らかい革という事でカーフ(子牛の革)を利用した。何より端切れの物が安く売っているので。
 鞘の太さに合わせて切った革を膠で接着する。乾燥するまでは洗濯ばさみで固定。大きい革がなかなか無いので、二枚の革でつなぐ。
 台に使っている半首が写っている。同時並行で作業していた半首では鉄板に麻布を貼り付けるという無茶をしていたので、今回初めて革と木、革と革という真っ当な接着をした気がする。良くくっつくなぁ・・・と感動。当たり前なんだが。




 鞘尻にも革を貼って鐺とする。
 遺物では鐺は金具にしている例が多いが、今回は金具にはしなかった。金具を取り付ける際には鞘尻と金具に凹凸(通常鞘側が凸)を造って組むのだが、その加工が施せる程、鞘尻部分に厚みがあるか疑問だった為。
 なお鞘尻も随分と削れていたので、コクソ(カシュー下地一号)を使って補修してやる。その上で膠で革を貼り付け、ヤスリで繋ぎ目を修正。



 革で包んだ状態。
 これは指裏。革の継ぎ目は裏に持ってきた。



 上の画像は革の継ぎ目のアップ。革が重なった部分の段差は、カッターやヤスリを当てておいたが、完全にフラットには特にしなかった。



 栗型と返角を施す部分の革を切り取る。



B金具付け



 使用した角製栗型と返角。刀剣愛好保存会で購入した物を修正した。
 栗型は問題ないが、返角の形が当時の物とは違うので削って修正した(本当は鞘に埋め込む土台の形も違う。現在の物は差し込む突起しかないが、当時の物は横から見ると「レ」の字に成っている。縦線が土台。当時の形の方が頑強と思われる)。
 それなりに値段もするし、当然職人の造ったしっかりした物なので、削る作業はスリリングである。



 金具を取り付けた状態。
 本来は接着剤として餅米の「そくいい」(米を練ったノリ)を使うが、今回は木工用ボンドで代用した。



C塗り



 カシュー塗料で塗りを施す。
 余り厚塗りせず、少し薄めにしたカシュー黒(薄め液40%位)で三度塗りした。ホコリが付いたり、筆ムラが生じた部分は耐水ペーパーの1000番で修正し、コンパウンドで磨いた。
 作業台としてバイス(万力)に刀身を挟んだ物を利用した。ここに鞘を差し込むと手で持たずに塗れる。
 角製の金具が利用される理由は、漆の乗りが良いというのも一つだが、確かに(カシュー塗料ではあるが)塗りやすかったし、食いつきも良かった。



栗型(左)と返角(右)のアップ。



革の合わせ目のアップ。